グリーフサポートスペシャリスト養成講座

「グリーフサポートネットワーク:みらさぽ」では、グリーフの当事者あるいはグリーフに深い関心のある一般の方が専門的な知識を身につけ、地域に根ざしたグリーフサポートを担う人材となることを願って、「グリーフサポートスペシャリスト養成講座」(以下GSS講座)を開催しています。
海外のいくつかの大学(例えば、ウィスコンシン大学、北ミシガン大学など)では、個人的および職業的な生活においてグリーフサポートを実践するための知識とスキルを強化するために、「グリーフサポートスペシャリスト講座」が生涯学習コースの一つとして提供されています。本講座はそれらを参考に、最新の学術研究をベースにした学習内容を編成しました。
自然環境と社会環境の双方がますます危機的で不確実になりつつある現代社会において、地域に根差した、仲間が支え合うグリーフサポートが求められています。一人でも多くの方に、グリーフサポートについて専門的な知識とスキルを学んでいただけることを心より願っています。
GSS講座 6つの特色
GSS講座は、以下の6つの特色を備えた非常に独自性のある学習内容となっています。

特色1:心理学をベースとした系統的なグリーフの学習
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グリーフは、精神医学、宗教学、社会学、心理学、福祉学など、複数の学問分野で研究されてきたことから、学際的なテーマといえます。
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本講座では、心理学を中心に基礎的なグリーフ理論や研究成果を系統的に学びます。
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心理学以外の分野(精神医学、社会学、福祉など)での研究も参照し、グリーフに関する知識を深めます。
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研究は、考え方や研究方法が時代とともに進展します。その点も踏まえて、グリーフ研究がどのように変化してきたのかを理解します。
特色2:エビデンスに基づくグリーフ理論とサポート技法の学習
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エビデンスのある知識とは、専門書籍や論文に基づく研究結果を意味します。この分野で評価の高い最新の学術書と学術論文に基づいて、分かりやすく講義を行います。
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以下は講座の基礎となる学術書の例です。一覧はこちら

特色3:多様なサポート技法の学習
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2023年に出版されたHandbook of grief therapyでは、グリーフ支援に応用される心理療法として、以下の11種類が紹介されています。また、編者のステファン氏が指摘しているように、グリーフが多様化している今日、多面的で多次元的なサポートは極めて有益であることから、本講座では広範囲のサポート技法を取り上げます。その他の技法として、支持療法(来談者中心療法)によるグリーフサポートも紹介します。
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講座受講によってこれらの手法を使用できるようになるわけではありませんが、専門家がどのような考え方に基づいて、どのようにこれらの手法を用いるのかを学ぶことで、より良いグリーフサポートの在り方を考える契機とします。
Handbook of Grief Therapy で紹介されている技法
①ナラティブアプローチによるグリーフサポート
②意味探求によるグリーフサポート
③実存分析によるグリーフサポート
④二重トラックモデルによるグリーフサポート
⑤愛着情報に基づくグリーフサポート
⑥精神分析によるグリーフサポート
⑦認知行動療法によるグリーフサポート
⑧EMDRによるグリーフサポート
⑨マインドフルネスによるグリーフサポート
⑩コンパッションフォーカストによるグリーフサポート
⑪芸術療法によるグリーフサポート
特色4:自己理解と他者理解を促す双方向的な学習
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講座では必ず討論の時間を設けているため、参加者は講座内で当日の学習内容に関する疑問や感想を述べ合うことができます。また、毎回課されるレポートにおいても、個人的な疑問や感想を記したり、過去の経験を振り返ることができます。講師は毎回のレポートに、必ずコメントを返信します。
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グリーフは体験に基づいた理解が重要であることから、無理のない範囲での自己開示が奨励されます。
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加えて、他者の考えを聞くことによって、他者理解の促進も期待されます。
特色5:未来志向、成長モデルに基づくグリーフサポートの追求
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近年のグリーフ研究によれば、グリーフ体験はレジリエンスを高め、体験後には成長が促されることも示されています。本講座では、人間には復元力や回復力、成長する力が備わっているという人間観を大切にしています。
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ナラティブアプローチや構成主義心理学では、人は困難な体験に対して能動的に対処し、意味を探求することによって、困難をバネにしてより充実した人生への転機とすることもできると考えます。本講座では、構成主義心理学の立場からナラティブアプローチをグリーフに適用する方法を学びます。
特色6:マインドフルネスによるグリーフサポートとセルフケアの方法を学ぶ
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マインドフルネスは、米国マサチューセッツ大学医学部のジョン・カバットジン博士が1970年代に提唱した、ストレスによる心身の不調を軽減するための心理療法です。
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死別が強烈なストレスをもたらすことはよく知られており、マインドフルネスはグリーフサポートにも効果があることが検証されています。講座では、効果検証に関する研究知見も紹介します。
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マインドフルネスは一度学習すると、各自が日々の生活に取り入れることができるセルフケアの方法であり、グリーフのストレスを軽減し心身の健康を増進するために非常に有効です。
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本講座では、日本でまだ本格的に取り組まれていないマインドフルネスによるグリーフサポートについて、具体的な手法を紹介します。
GSS講座の構成
GSS講座は、PARTⅠ(理論編:5回)、PARTⅡ(方法編:5回)、PARTⅢ(実践編2回)の3部で構成されており、一定の基準(参加状況、各回課題の提出、最終レポートの提出)を満たして受講された方には、「グリーフサポートスペシャリスト」の資格を認定いたします。

PARTⅠ グリーフの基礎理論を学ぶ
PARTⅠ- 1 グリーフに関する主要概念の説明とグリーフケアの種類
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グリーフ、喪失、グリーフサポート
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正常なグリーフと遷延性グリーフの区別
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3種類のグリーフケア(グリーフサポート、グリーフカウンセリング、グリーフセラピー)
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専門家の視点と当事者の視点
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当事者によるサポートのメリット
PARTⅠ- 2 グリーフの古典的理論
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歴史にみる死生観の変遷(アリエス「死と歴史」より)
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フロイト:デカセクシス理論
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リンデマン:急性悲嘆反応の研究
PARTⅠ- 3 20世紀後半のグリーフ理論 (1)
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キューブラ―・ロス:死の5段階理論
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ボウルビィ:グリーフの4段階モデル
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デーケン:悲嘆プロセスの12段階
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ウォーデン:喪の過程における4課題
PARTⅠ- 4 21世紀のグリーフ理論 (1)
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シュトレーベ:二重過程モデル
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クラス:絆の継続
PARTⅠ- 5 21世紀のグリーフ理論 (2)
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フランツ:愛する人を失った後の成長
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ニーマイアー:意味再構成理論
PARTⅡ グリーフサポートの考え方と技法を学ぶ
PARTⅡ- 1 グリーフに対する心理的サポート概論
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グリーフに対する心理的サポートとは
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グリーフサポート:近年の特徴
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グリーフサポートに使われる様々な心理療法
PARTⅡ- 2 来談者中心療法によるグリーフサポート
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ロジャーズ:セラピストに必要な条件(自己一致、無条件の肯定的配慮、共感)
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ロジャーズ:傾聴(アクティブリスニング)
PARTⅡ- 3 認知行動療法によるグリーフサポート
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ボーレンとエイマス:グリーフのための認知行動療法
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ソロモン:グリーフと喪へのEMDRの活用
PARTⅡ- 4 ナラティブアプローチによるグリーフサポート
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ヘツキ:喪失後の人生を支えるナラティブアプローチ
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ニーマイアー:意味探求としてのグリーフセラピー
PARTⅡ- 5 マインドフルネスによるグリーフサポート
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グリーフのためのマインドフルネスプログラム
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まとめ:今日的なグリーフサポートの在り方を考える
PARTⅢ グリーフサポートの実践方法を学ぶ
PARTⅢ- 1 グリーフサポートの実践に必要な事項
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グリーフサポートの対象を決める
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活動期間、間隔、内容を決める
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ガイドライン、ルールを作る
PARTⅢ- 2 コンパニオンモデルによるグリーフサポートの実践
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ウォルフェルト:12回のプログラム
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講座全体のふりかえり
受講者の声
第1期生 Hさん

今まで自分の身におこった喪失後の出来事が理解できず気持ちを抑えこんで過ごしていました。講座を受けていく中で理解が進み、気持ちの整理できました。さまざまなグリーフの理論を歴史的、文化的背景から読み解くことによって、現在のグリーフ、これからグリーフの形が見えてきたように思います。今後は、喪失を体験した当事者の立場として、支援する側として携わっていきたいです。
第1期生 Aさん

どこから手をつけて良いかわからないほどの膨大な情報の中から、ポイントを凝縮してグリーフについて学ぶことができます。考え方や研究方法が時代とともに進展する様子も学ぶことができ、論文にも多く触れていきます。自分の心と身体に起こった反応 について、納得できる場面がたくさんあり、これでいいんだと思えたことが安心に繋がりました。面白くて、あっという間の2時間です。毎回「自分はどう思ったか」をお話しする時間も学びでした。次は何が学べるんだろうとワクワクしながら参加できました。
第1期生 Iさん

生きる意味を見失って塞ぎ込む、でも私までいなくなってはいけないと踏ん張る、でも、辛い。生きる意味を見つけて進みだす、笑顔が増える、でも時折哀しくて不安。停滞と前進(時々後退)を繰り返して今に辿り着きました。大きく揺れ動く心身が凪いできたのは何故か?を仲間と共に学びながら整理することは、私にとって大きな癒しの時間になっています。この学びを通して、次は、揺れ動く誰かにそっと寄り添いたいなと思っています。
第2期生 Kさん

父の死をきっかけに受講しました。とてもありがたかったのは、それぞれの理論の提唱者の文献を読む機会が持てたことです。レポートは少し大変でしたが、理論と照らし合わせながら、自分のグリーフを文章に綴ったことで、少しずつ頭の中が整理されていきました。他の受講生の方々の体験をお聴きしたり、課題に取り組むこと自体が、ケアにつながることを実感する機会にもなりました。学んだことを今、取り組んでいるグリーフカフェの中でも活かしていきたいと思います。
第1期生 Kさん

講座では、さまざまな理論や療法を歴史的に学ぶことができます。人は昔から大切な人を亡くし、悲しみ、絶望してどのように考え生きてきたか。今の自分に照らし合わせ、自分をありのままでいいと思えました。亡くしたこどもと共に今を生きていく…まだまだ私には待っていてくれる方ややってみたいことが見つかる、そんな未来をこどもと一緒に、この経験を通じて出会った仲間と一緒に描いていきたいです。
第1期生 Kさん

この講座を受講したいと思ったのは、グリーフの会に参加したことがきっかけでした。
自分に向き合う為、そして家族を支えたいという思いがありました。学んでいくうちに自分の心や身体の状態を理解することができ、揺らぎながら生きていけばいいのだということを知りました。
1歩前へ、時には後戻りする時があってもいい。
そんな私も、更に知識を高め誰かの支えになりたいと思うようになりました。
第1期生 Mさん

グリーフの会に参加し、より深く学びたいと思い受講しました。 学ぶ中で自分の心や身体に起きたことは、だからそうだったと納得できたり、間違えではなかった思えたり、 自分だけじゃないんだと安心できました。前に進んだり、時には戻ったりしながら一緒に生きていけばいいと思える大切な学びの時間でした。これからも、グリーフについて学びながらこの経験を生かして必要としている誰かの心にそっと寄り添いながら一緒に生きていけたらと思っています。




